暑くなると「とびひ」の季節!対策は?受診の目安は?

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夏は薄着になり、肌の露出が増える季節。ですが、同時に「とびひ」という皮膚感染症のリスクも高まります。特に小さなお子さんを持つ親御さんは、子どもの肌トラブルに気を揉む時期ではないでしょうか? 最初は1箇所だったのが、知らないうちに腕や顔などあちこちに感染を広げ重症化してしまう前に、とびひの症状や原因、そして家庭でできる対策を知っておくことが重要です。

とびひは、正式には「伝染性膿痂疹」と呼ばれ、黄色ブドウ球菌や溶連菌といった細菌の感染によって引き起こされます。蚊に刺された後やかきむしった傷など、皮膚のバリアが弱くなった部分から細菌が侵入し、水ぶくれやかさぶた、強い痒みなどの症状が現れます。 近年では、抗生物質が効きにくいMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による感染も増加しており、早期の適切な治療がますます重要になっています。

この機会に、とびひに関する正しい知識を身につけて、暑い夏を健康に過ごしましょう。この記事では、とびひの症状や種類、原因となる菌、そして効果的な治療法とホームケア、予防策まで、詳しく解説していきます。

とびひ(伝染性膿痂疹)とは?症状・原因・種類を詳しく解説

とびひは、正式には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」と言い、細菌感染によって皮膚に炎症を起こす、ありふれた皮膚病です。特に夏場、お子さんに多い病気のイメージがあるかもしれませんが、大人でもかかることがあります。ジクジクした浸出液を放置してしまうと思いがけず周囲に広がり、適切な治療を行わないと症状が悪化したり、他の人にうつしてしまう可能性があります。

とびひ(伝染性膿痂疹)とは?

とびひは、皮膚に傷ができると、普段はそこまで悪さをしないはずの皮膚の常在菌がジクジクした汁(浸出液)の中で爆発的に増え、皮膚にダメージを与える毒素(表皮剝脱毒素)を産生することでその浸出液が触れたところにどんどん広がってしまうような病態です。 例えば、蚊に刺された箇所やかゆみのある湿疹などを無意識にかきむしってしまうと、その傷からでた浸出液のなかで上記の毒素が増えてしまいます。その浸出液があちこちに触れてしまうと、その場所に同じような病変を起こします。患部を触った手で他の部位を触ったり、タオルや衣類、おもちゃなどを共有することで広がってしまうため、注意が必要です。特に、小さなお子さんでは、皮膚が薄く、皮膚の防御システムがまだ十分に発達していないため重症化しやすい傾向があります。

とびひの2つの種類:水疱性膿痂疹と痂皮性膿痂疹

とびひは、原因となる細菌の種類や症状の違いから、主に「水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)」と「痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)」の2種類に分けられます。それぞれ適切な治療法が異なるため、まずはご自身の症状がどちらのタイプに当てはまるのか、見極めることが重要です。水疱性膿痂疹は、黄色ブドウ球菌(おうしょくブドウきゅうきん)という細菌が原因で、皮膚に水ぶくれができるのが特徴です。最近ではアニメの「はたらく細胞」などでも有名になりましたね。(院長も子供とよく一緒に見ていますが、よくできたアニメです)

一方、痂皮性膿痂疹は、溶連菌(ようれんきん)と呼ばれる細菌が原因で、水疱性膿痂疹よりも症状が重めで厚いかさぶたができるのが特徴です。とびひの中には、黄色ブドウ球菌と溶連菌の両方が感染している混合感染のケースもみられます。

水疱性膿痂疹の症状:水ぶくれ、かゆみ、痛み

水疱性膿痂疹は、皮膚に1~2mm程度の小さな水ぶくれが多数でき、強い痒みを伴います。水ぶくれは徐々に大きくなり、最終的には破れてびらん(ただれてじゅくじゅくした状態)になります。このびらんが周囲に広がり、他の皮膚にも感染を広げていくことがあります。水疱性膿痂疹は、顔、首、手足などに発症しやすく、特に夏場に乳幼児に多く見られます。

痂皮性膿痂疹の症状:厚いかさぶた、浸出液、痛みやかゆみ

痂皮性膿痂疹は、皮膚が赤くなり、その上に膿(うみ)をもった水ぶくれができます。この水ぶくれはすぐに破れて、黄褐色(おうかっしょく)のかさぶたに変化します。かさぶたの下からは、浸出液(しんしゅつえき)と呼ばれる黄色っぽい液体が滲み出てきます。痂皮性膿痂疹は、水疱性膿痂疹に比べて痒みは弱く、顔や手足だけでなく、体や背中にも発症することがあります。黄色ブドウ球菌よりも毒性の高い溶連菌が原因のため、まれにリンパ節が腫れたり、発熱したりと全身症状が出る場合もあります。その場合は適切な治療(抗生剤)を行わないと、IgA腎症などの合併症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。合併症の有無を確認するために、尿検査が必要になることもあります。

とびひの原因となる菌:黄色ブドウ球菌、溶連菌

とびひの原因となる主な細菌は、黄色ブドウ球菌と溶連菌です。黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚や鼻の中などにも存在する常在菌(じょうざいきん)ですが、皮膚のバリア機能が低下した際に感染症を引き起こすことがあります。特に、アトピー性皮膚炎など、もともと皮膚のバリア機能が弱い方は、とびひを発症しやすい傾向があります。溶連菌は、のどや皮膚などに感染症を引き起こす細菌です。近年では、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:めちしりんたいせいおうしょくブドウきゅうきん)という、多くの抗生物質が効きにくいタイプの黄色ブドウ球菌による感染が増加しています。MRSA感染の場合、治療が難しく、治癒するまでに時間がかかることがあるため、医療機関への受診が重要です。MRSAは、院内感染型と市中感染型に分けられ、とびひの原因となるMRSAは主に市中感染型です。抗生物質の乱用がMRSA発生増加の要因の一つと考えられており、適切な抗生物質の使用が重要です。

とびひ(伝染性膿痂疹)の受診の目安とホームケア

とびひは、適切な治療とケアを行うことで、通常1~2週間程度で治癒します。しかし、自己判断で治療を中断したり、不適切なケアを行ったりすると、症状が悪化したり、治癒が遅れたり、他の人へ感染を広げてしまう可能性があります。とびひの治療の基本は抗菌薬ですが、家庭でのケアも非常に重要です。症状に合った治療と正しいホームケアで、とびひの悪化を防ぎ、早期に治癒を目指しましょう。

受診の目安としては、初めはジクジクした病変が1カ所だったのに、徐々に増えてきているようであれば早めに受診しておいたほうがよいでしょう。また兄弟姉妹に同様の病変が広がってきている時も要注意です。

とびひの治療:抗菌薬(外用薬・内服薬)

とびひの治療には、原因菌である細菌を殺菌するための抗菌薬が用いられます。抗菌薬には、塗り薬タイプの外用薬と、飲み薬タイプの内服薬があります。とびひの程度が軽い場合は、外用薬のみで治療することが多いです。具体的には、患部に限定された小さな水疱や痂皮が数個程度であれば、外用薬だけで十分な効果が期待できます。しかし、症状が重かったり、広範囲に広がっていたりする場合は、内服薬も併用します。例えば、発熱やリンパ節の腫れを伴う場合や、水疱や痂皮が全身に広がっている場合は、内服薬が必要となることがあります。

外用薬としては抗生物質を含む軟膏が用いられます。これらの薬剤は、細菌の増殖を抑えることで、とびひの症状を改善します。内服薬としては、セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系の抗生物質が用いられることがあります。医師は、患者の症状や年齢、アレルギーの有無などを考慮して、最適な抗菌薬を選択します。近年、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という薬剤耐性菌が増加しており、治療に難渋するケースも報告されています。そのため、医師の指示に従って、適切な薬を適切な量と期間使用することが重要です。自己判断で薬の使用を中止したり、量を変えたりすることは避けてください。

家庭でのケア方法:患部のジクジクをきれいに洗う・ジクジクがほかの部位に触れないよう覆うこと!

とびひの治療において、家庭でのケアは非常に重要です。とびひの部分は清潔に保つことが大切です。毎日シャワーに入るとき、石けんで優しく洗って流水でよくすすぎ、清潔なタオルで丁寧に水分を拭き取りましょう。ゴシゴシこすったり、熱いお湯で洗ったりすると、皮膚への刺激となり、症状が悪化することがありますので、優しく丁寧に洗うように心がけてください。

軟膏を塗る際は、患部とその周辺に十分量を均一に伸ばしてください。軟膏は、1日に2回塗布するのが一般的ですが、1日1回の外用薬もあります。塗布する回数は、医師の指示に従ってください。

またとびひの部分をガーゼで覆うことで、患部を保護し、掻きむしってしまうことを防ぎ、また、他の人への感染を防ぐことにもつながります。ガーゼや包帯は清潔なものを使い、1日に1~2回交換しましょう。交換の頻度は、浸出液の量などによって調整します。ジクジクした浸出液が多い場合は、亜鉛華軟膏などをガーゼに塗り伸ばして患部を覆ってあげると、汁を吸い取りながら皮膚をふやかすことなく改善していく「収斂効果」も得られます。また初めから布に伸ばしてあるボチシートなどの製剤もあります。これらは手間ですが非常に有効です。お風呂に入る前には亜鉛華軟膏が取りにくい場合がありますので、サラダ油などをティッシュなどに浸して白い軟膏を拭きとってからシャワーしてあげると綺麗になりやすいです。

アトピー性皮膚炎との関連とケアの注意点

アトピー性皮膚炎の方は、皮膚のバリア機能が低下しているため、とびひになりやすい傾向があります。とびひを合併した場合は、アトピー性皮膚炎の治療も並行して行う必要があります。アトピー性皮膚炎の治療薬であるステロイド外用薬は、とびひの治療中でも継続して使用することが推奨されています。ステロイド外用薬は通常はとびひのような感染症の時には使わないことが多いですが、湿疹病変を合併してしまっている場合(膿痂疹性湿疹)は状況により使用することもあります。ただし皮膚科専門医の指示に従い、適切な治療を継続しましょう。

とびひの部分を掻きむしってしまうと、症状が悪化したり、とびひが他の場所に広がったりする可能性がありますので、なによりも触らない・掻かないように注意することが大切です。また爪を短く切っておくことも有効です。かゆみが強い場合は、医師に相談し、抗ヒスタミン薬などの内服薬やかゆみ止め外用薬を処方してもらうと良いでしょう。

MRSA感染の場合の治療と注意点

近年、とびひの原因菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が増加しています。MRSAは多くの抗菌薬が効きにくい、薬剤耐性菌です。MRSA感染が疑われる場合は、薬剤感受性検査を行い、適切な抗菌薬を選択する必要があります。この検査では、実際に患部から採取したMRSA菌を培養し、様々な抗菌薬に対する感受性を調べます。適切な抗菌薬を使用しないと治癒が遅れることがあるため、医師の指示に従って治療を受けることが重要です。特に、MRSAによる集団感染を防ぐためには、症状が治まるまで患部を十分覆って保育園や学校などの集団生活で他の人に広げない・移さないように注意する必要があります。

またプールも、治癒するまで控えることが推奨されます。これは、プール水が感染源となる可能性は低いものの、接触感染のリスクを避けるためです。

とびひの治療期間と再発防止策

とびひの治療期間は、症状の程度や適切な治療が行われたかによって異なります。適切な治療を行えば、通常1週間から2週間程度で治癒します。しかし、MRSA感染の場合や、重症化した場合、治癒までにもっと長い期間を要することがあります。

とびひを再発させないためには、皮膚を清潔に保ち、保湿を心がけることが大切です。乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、細菌感染を起こしやすくなります。季節に合った適切な基材の保湿剤をこまめに塗布し、皮膚のバリア機能を維持しましょう。

また、虫刺されや小さな傷を放置しないようにし、掻きむしらないように注意しましょう。とびひは接触感染で広がるため、家族内で感染を広げないよう、タオルの共用を避けたり、こまめに手洗いをしたりするなど、適切な感染対策を行うことが重要です。

とびひ(伝染性膿痂疹)の予防と日常生活の注意点5選

(1)家庭内での感染予防:タオル、衣類、食器の共有を避ける

とびひは患部のジクジクの接触感染で広がるため、家庭内での感染予防が重要です。とびひを発症した人が使用したタオル、衣類などを介して、他の人に感染する可能性があります。

タオルは、一人一枚使い、毎日交換しましょう。とびひを発症した人が使用したタオルは、ほかの家族が共有しないようにしましょう。衣類も毎日交換します。ジクジクした部分に触れた衣類やタオルはすぐ洗濯するようにしましょう。また、鼻の入り口など見えない所のとびひは、うっかり子供が鼻をほじった手でほかの場所を触ることで広がることも多いため、患部を触らないように注意しましょう。

これらの対策を徹底することで、家庭内での感染拡大を防ぐことができます。

(2)保育園・学校への登園・登校について

とびひを発症した場合、登園・登校については医師の指示に従いましょう。一般的には、発熱など全身状態に問題がなく、患部の浸出液がほかの場所や人に触れないように十分に覆えて清潔な状態を保てていれば、登園・登校は可能です。ただし、患部がほかの場所に触れてしまう、あるいは鼻の中など覆えない場所に浸出液がある場合などは注意が必要です。またプールなどは患部が乾いて治るまで避けましょう。

江南厚生病院こども医療センターの研究では、とびひは夏季に多く発症し、3歳未満児とアトピー性皮膚炎患者に高頻度に見られることが報告されています。

(3)プールやお風呂での注意点

とびひを発症している間は、プールへの入場は控えましょう。プールでは、たとえ塩素消毒されていても、原因菌が他の人に感染するリスクがあります。お風呂はシャワーのみで済ませ、湯船には浸からないようにしましょう。湯船では、原因菌がお湯に溶け出し、感染が広がる可能性があります。

(4)正しいスキンケアで肌のバリア機能を高める

健康な皮膚は、外部からの刺激や細菌の侵入を防ぐバリア機能を備えています。このバリア機能を高めるためには、適切なスキンケアが重要です。皮膚の乾燥はバリア機能を低下させるため、保湿剤をこまめに塗布し、皮膚の水分を保ちましょう。刺激の少ない低刺激性の石鹸を使用し、紫外線対策も忘れずに行いましょう。

また虫刺されや湿疹は放置するとかき壊してしまい、浸出液が増えてとびひを起こすことが多いため、早めの治療を心がけましょう。

(5)患部を掻きむしらないための対策

とびひは強い痒みを伴いますが、患部を掻きむしると症状が悪化し、細菌が他の部位に広がる可能性があります。爪を短く切り、患部を冷やす、抗ヒスタミン薬を服用する、患部をガーゼで覆うなどの対策を講じましょう。とびひの予防には、保湿、掻き壊し防止、清潔な皮膚の維持が重要と述べています。

とびひは、適切な治療と予防対策を行うことで治癒する疾患です。少しでも気になる症状があれば、早めに皮膚科を受診しましょう。当院では、皮膚科学会認定の皮膚科専門医である院長が、とびひをはじめとする様々な皮膚疾患に対応しております。お気軽にご相談ください。

まとめ

とびひは、細菌感染による皮膚の炎症で、夏場に多く見られます。感染力が強いので、早期の治療と適切なケアが重要です。とびひには水ぶくれができる水疱性膿痂疹とかさぶたができる痂皮性膿痂疹の2種類があり、それぞれ適切な治療法が異なります。抗菌薬による治療が中心で、症状が軽い場合は外用薬、重い場合は内服薬も使用します。家庭では、患部を清潔に保ち、抗菌薬を正しく塗布し、包帯などで覆うことが大切です。アトピー性皮膚炎の人はとびひになりやすいので、スキンケアにも気を配りましょう。MRSA感染の場合は、適切な抗菌薬を選択するために検査が必要となることもあります。とびひは通常1~2週間で治りますが、再発を防ぐには、皮膚を清潔に保ち、保湿を心がけ、傷を放置しないことが重要です。感染拡大を防ぐため、タオルや衣類の共用は避け、こまめな手洗いを心がけましょう。気になる症状があれば、早めに皮膚科を受診してくださいね。

参考文献

  1. 池田政身. 伝染性膿痂疹-最近の動向.
  2. 馬場直子. 伝染性膿痂疹.
  3. 鈴木道雄, 西村直子, 成田敦, 安在根, 荒井直子, 小山慎郎, 牛田肇, 尾崎隆男. 小児膿痂疹患者の臨床的および細菌学的検討.